デポジットでどうだ!?
放置車両

寄稿:後藤哲志

 
違法な放置車両が増え始め、市町村からは県に何とかしてくれとクレームが出始めています。

 今年の5月には、市町村の代表は県に対して放置車両の問題を緊急課題として要請行動を起こしました。

 昨年度に市町村は1344台の放置車両を撤去するために、約1,700万円も私たちの税金を出費したということです。



静脈産業

 今月の琉球新報(6月9日)に「県内の放置車両7828台」という見出しで、とてもショッキングな記事が掲載されました。

 5月に全市町村が放置車両の台数を調査したところ、今年2月に行った暫定調査の3251台の2.4倍、7828台に上ることがわかったという内容です。しかし、実態は恐らくもっと深刻な状況だと思います。

 昨年の10月に廃車の逆有償が始まってから、自動車解体業者はシュレッダー業者に売却できなくなった廃車を敷地いっぱいに抱え込んでいますから、なんとか廃車を流通させる仕組みを作らない限り、膨大な量の放置車両予備軍の行く先が見つからない状況なのです。

「廃車を流通させる仕組み」と聞いて、「新車」の間違えでは?と思う人は時代遅れ。

 人の体になぞらえて、モノを生産する産業を「動脈産業」、それを回収し再資源化する産業を「静脈産業」と表現するようになってもう久しいのです。リサイクルはこの両輪がうまくかみ合ってはじめて成立するといえます。 

 ところが、沖縄ではなかなかこの両輪がかみ合いません。島しょ県である沖縄では静脈産業にとって不利な条件が多いのです。

 そして私たちが日ごろ静脈産業の存在に注目することがほとんどないことも静脈産業の立場を弱くしているといえるかも知れません。

 静脈産業の育成、すなわちここでいう自動車解体業者やシュレッダー業者が確実に金儲けできる仕組みを作っていくことはスクラップの問題を考える場合、とても重要な課題なのです。

 ところで、静脈産業にとって沖縄の不利な条件も、発想の転換次第では逆に有利な条件に変えてしまうことができるかも知れません。それはモノの移出入に対してチェックのしやすい島しょ県だからこそ有効に働くデポジット制度の導入です。


デポジット制度

 ゴミの散乱はゴミの不法投棄ということですから、廃車の不法放置は、少し大袈裟な言い方をすると「廃車の散乱」と言い換えることができます。

 実際、離島に足を運ぶと、あまり人目の届かない茂みなどに廃車がまさに散乱しているのに出くわすことがあります(離島だけに限ったことではありませんが)。

 ところで空き缶や空き瓶の散乱の防止策として、昔からデポジット制度が有効な役割を果たしてきました。

 デポジット制度とは、再利用のための回収を目的として、あらかじめ飲料水などの販売価格に容器代を上乗せしておき、消費者が容器を捨てずに返却した場合にその容器代を返却するシステムです。

 静脈産業の流通さえ確立すれば、これは美化運動の観点から容器の散乱を防ぐだけでなく、貴重な資源の保全にもつながるリサイクルの一つの有効な制度だといえます。

 そこで、このデポジット制度を「廃車の散乱」を防ぐために自動車に応用してみてはどうでしょうか。

 たとえば自動車を購入するとき、あらかじめ2万円が上乗せされたとします。この2万円は廃車の処理に関わる静脈産業で運営する基金にプールされ、管理されます。

 消費者が自動車を廃車にするときには、この基金から1万円が返ってきます。本当は元の2万円が返ってきたらよいのですが、前回話したように、今は自動車を1台処分するのに1万円かかるご時世なので、自動車の効用を享受した恩返しと思ってこらえてみてはどうでしょう。

 これでとりあえず廃車は解体業者の手に渡ります。解体業者は廃車から有用な部品を取り除いたスクラップをシュレッダー業者に鉄の相場相当の値段で買い取ってもらいます。

 シュレッダー業者は、これまでのようにスクラップを買いたたいたり、逆有償で引き取ることはなくなるはずです。なぜなら、静脈産業で運営する基金から、残りの1万円を受け取り、シュレッダーダストの処分に当てることができるからです。

 以上は自動車に対するデポジット制度の大ざっぱな応用例の私案ですが、果たしてこの様な方法で「廃車の散乱」はなくなるでしょうか。

 先に、沖縄はモノの移出入に対してチェックのしやすい島しょ県だからデポジット制度が有効に機能するのではないかと述べました。

 沖縄ではよそから勝手に自動車に乗ってやって来ることはできませんし、よしんば他府県から自動車を運んで来ることがあったとしても移入税として2万円の支払いに協力してもらえば、この2万円を上乗せして静脈産業を育成するという変形デポジット制度は、島社会のリサイクルシステムとしてうまく機能するのではないでしょうか。

 もし陸続きの他府県であったら、このシステムはもっと複雑なものになるはずです。そしてそれを行うには難しい国民的合意が必要になるでしょう。

 しかし沖縄であれば、もちろん県民的合意は欠かせませんが、自分達の島を「廃車の散乱」で汚さないためにもきっと良い理解が得られるのではないかと思うのです。

 最後になりましたが、シュレッダーダストを処理する最終処分場の問題は緊急事態です。

 もう、埋め立ての出来る場所が残り少ないのですから。一体どうすればこの問題を乗り越えることができるのか、皆さんも一緒に考えてみてください。

 1998年8月、沖縄県金属資源工業会は「公共関与による管理型処分場建設に関する要請書」を県に提出しました。

その中には「他の5カ所の処分場は満杯に近く、これ以上の処分は困難。

その原因は、

(1)自治体から持ち込まれるごみの処分で処分場の受け入れ能力の限界に達していること。
(2)米軍基地内から排出されているごみ処理を行っていること。したがって、廃自動車処理に使うシュレッダーダストの受け入れは困難な状況である」という一文があります。

参考
「自動車業界の動きとしては、平成3年に制定されたリサイクル法により、従来埋め立て処分としていたシュレッダーダストの再利用が最重要課題となり、使用済み自動車のリサイクル促進を中心に模索しているようです。

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